プロフェッショナルサービス
2026.01.09
株式会社enechain
<導入サービス>
インシデント対応支援
信頼性の継続的改善
株式会社enechainは、エネルギーのマーケットプレイスを運営するスタートアップ企業です。エネルギー業界の変革を牽引する同社は、プロダクト数の増加に伴い、開発チーム間におけるインシデント対応品質のムラが課題となっていました。そこで同社は、SIGQのインシデント対応支援サービスを導入。全チームへのイネーブリング(自走支援)を通じて、インシデント対応力の底上げと、プロダクト監視文化の定着による信頼性の強化に成功しました。
■導入前の課題
プロダクト数が増加する一方で、開発チームごとのインシデント対応品質にムラが生じていた
障害対応への意識やノウハウが属人的で、組織として標準化されていなかった
ビジネスをさらに成長させるために、セキュリティやインシデント対応といったプロダクトの信頼性を強化する必要があった
■導入効果
プロダクトを監視する文化が組織全体に定着し、信頼性の継続的改善の基盤を構築
全開発チームへのイネーブリングにより、インシデント対応力が全社的に安心できる水準まで向上
セキュリティ水準の向上にも知見を提供し、信頼性を武器にしたビジネス展開に貢献
プロダクトの急成長に伴い、インシデント対応の品質にムラが発生
株式会社enechainは、「Building Energy Markets, Coloring Our Society」をミッションに掲げ、2019年に設立されたスタートアップ企業です。国内最大級のエネルギーマーケットプレイスの運営者として、eSquare LiveやeCompassなど複数のプロダクトを展開し、エネルギー業界のDXを推進しています。
同社CTO 須藤優介氏は、enechainの事業の特徴について次のように語ります。

「当社の事業の面白さは、電力という社会インフラを担うシステムを、スタートアップでありながら作っていくというチャレンジをしている点にあります。電力取引の世界では、2016年の電力自由化をきっかけとして、日々様々な制度変更の提案が行われています。しかし、そういった要望にクイックに応えていけるようなシステム開発体制が整えられている企業は多くありません。だからこそ、スタートアップならではのスピード感や、新しい技術を活用した開発スタイルを強みとして発揮することができます」
enechainでは、Google Kubernetes Engine(GKE)を中心に、Google Cloudを基盤とした技術スタックを構築しています。社会インフラを担うシステムには、セキュリティやサービスレベルなど、高い信頼性が求められます。そこで、ビジネスの成長に耐えうるスケーラビリティを備え、チームを横断した管理が可能なGKEを採用し、統一的なガバナンスとプラットフォームエンジニアリングを実践しています。
事業が成長し、複数のプロダクトを展開していく中で課題となったのが、開発チーム間でインシデント対応品質にムラが生じていることでした。具体的には、プロダクトごとに、障害検知方法やインシデントへの対応速度がまちまちだったことに不安を感じたと、須藤氏は振り返ります。
「社会インフラを担うプロダクトには、高い信頼性が求められます。全プロダクトを横断して、インシデント対応力の底上げが必要だと考えました」(須藤氏)
この課題の背景には、いくつかの要因があります。初期のプロダクト開発では、新規機能の開発が優先され、信頼性向上のための取り組みは後回しになりがちです。また、インシデント対応への意識やノウハウが属人的で、エンジニア個人の経験に左右されがちだったことも理由でした。こうした状況を解消するために必要となるのがSRE(Site Reliability Engineering)、すなわちソフトウェアエンジニアリングに基づく運用設計と、継続的な計測・自動化・改善によってサービスの信頼性を向上させるための手法・役割です。
しかし須藤氏は、SREを実践する難しさも指摘します。SREには、一定以上の規模を持つプロダクトの運用経験や、アプリケーションとインフラの双方の知見が欠かせません。また教科書的なSREの知識をそのまま適用しようとするとうまくいかず、組織や、ビジネス、プロダクトの現在のフェーズに合わせて、柔軟に対応することが求められます。須藤氏によれば、このような高度なスキルを持った人材はかなり限られると言います。
決め手は「やり切る」姿勢 全チームを巻き込んだSRE自走支援
これらの課題の解決を目指して、2025年5月にenechainが導入したのが、SIGQのインシデント対応支援サービスです。導入の決め手となったのは、スタートアップや大規模WebサービスにおけるSREの知見に加え、サービス内容と提供価値の明確さにあると、須藤氏は言います。
「過去の経験から、外部へのSRE業務委託においては、期待値が曖昧なまま人を増やしても、実現したい成果が得られないという反省もありました。その点、SIGQは現状の改善点を分析し、期間内に『やり切る』べき内容を明確にしたロードマップを事前に提示してくれました。成果に対する期待値のすり合わせがしやすかったですし、技術力とマネジメント力を両立できる人材は非常に少ないこともあり、その点に大きな期待を持ちました」(須藤氏)
SIGQによる支援内容は次のとおりです。まず、現状分析と改善のロードマップに基づき、OKRおよび定期的なレポーティングの仕組みを構築しました。そのうえで、SIGQのメンバーがSREとして各開発チームに参加し、各チームが自走できる状態になるまで伴走しました。具体的な取り組みとしては、Datadogを活用したモニタリング基盤の構築・改善、アラート設定の最適化を含む運用・監視体制の整備、インシデント対応フローの策定と全社への浸透などが挙げられます。加えて、SIGQ自身がSOC2 Type1保証報告書を取得した際の経験を生かし、内部統制やセキュリティについての知見の提供も行いました。
特に重点的に取り組んだのは、インシデント対応力の向上とイネーブリングでした。週1回のミーティングを全開発チームに対して実施し、メンバーと同じ目線で目標達成に向けた働きかけを行ったこと。そして、ステークホルダーにも承認を取りながら、ルール・ポリシーやドキュメントを整備し、チームに定着させていったこと。これらのSIGQによる取り組みについて須藤氏は、「当社側のマネジメント工数を削減しつつ、変革のための一連の取り組みを漏れなく実施していただいた」と高く評価しています。
「私自身、一部のプロダクト開発のリーダーでもあったので、イネーブリングされる立場でもありました。信頼性に関する指標が明確になったことで、インシデントの兆候を漏れなくチェックできるようになり、チームが自走していく様子を自ら体験しました」(須藤氏)
プロダクト監視文化の定着 成長に向けた信頼性強化の布石
SIGQの支援によって得られた具体的な成果の一つが、アラート数の大幅な削減です。IaCでインフラを構築する場合、同じ設定内容が複数の環境にそのまま伝播します。そのため、アラート設定に誤りがあると、その影響が全体に及び、大量のノイズを生む原因になってしまいます。特にアラート設定は、一度構築されると放置されてしまいがちです。そこで、上流の設定を見直した結果、アラート件数を10分の1に削減することに成功しました。ノイズが減少したことで、本当に対応が必要なアラートに集中できるようになり、インシデント対応の質が大きく向上しました。
SIGQの支援によって得られた最大の成果は、定量的な改善以上に「プロダクトを監視する文化が組織に定着したこと」だと、須藤氏は強調します。かつてはチームごとにばらつきがあったインシデント対応への意識が統一され、組織全体として「エラーが発生したら即座に反応し、修復する」という高い水準での対応が定着しました。一つのチームの緩みを放置せず、全社で一貫した基準を維持することで、プロダクトを常に監視し、その信頼性に責任を持つ習慣が確立されたのです。
「BtoBのビジネスでは、BtoCと比べてアクセス数が少ないこともあり、小さなエラーを軽視してしまいがちです。しかし、今後ビジネスをスケールさせていくためには、プロダクトの信頼性は決して疎かにはできません。将来の成長を見据えると、このタイミングで信頼性を重視する組織文化を強化できたことは、大きなメリットです」(須藤氏)
信頼性を武器に、社会インフラとしてさらなる飛躍へ
須藤氏は、今後の同社の展望について、eSquare Liveなどの新規プロダクトの利用を促進しつつ、複数のプロダクトを統合し、顧客にとってシームレスで最適なソリューションを提供していきたいと語ります。さらに社会インフラを支えるプロダクトとして、より高いセキュリティや可用性要件への対応が求められているとも付け加えました。そこで同社は、今後国際機関による第三者認証の取得など、さらなる信頼性強化のための取り組みも検討しています。
「ランサムウェアなどによる被害が深刻化する中で、お客様はセキュリティ対策にこれまで以上に強い関心を寄せています。セキュリティへの投資は、守りの側面だけでなく、お客様に安心して利用していただき、自社プロダクトの価値を高める攻めの武器としても重要です。SIGQの持つ高度なセキュリティ知見に期待しています」(須藤氏)
最後に須藤氏は、同様の課題を抱える企業に対し、次のようにアドバイスを送ります。
「SREは難易度の高い業務であり、個社ごとの最適解を導き出すには、一定の経験と実行力が必要です。ときには自分たちだけで試行錯誤するよりも、SIGQのような実行力を伴ったソリューションを導入することが、結果的にはもっとも早くSREの実現と、チームの自走につながります」(須藤氏)
エネルギー業界の変革を目指すenechain。今後もSIGQは、信頼性向上のための取り組みを通して、同社の挑戦を支援していきます。